快速電車や高速道路に乗れない ~パニック・アタック

快速電車や高速道路に乗れない ~パニック・アタック
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日常を一変させるパニック



俺は、トラックドライバー。


運転が好きな俺にとって、この仕事は天職だ。
誰にも拘束されず、予定通りの時間で走ればいいというのはたやすい事。


荷物を積んで、指定の場所まで届ける。
それの繰り返し。
群れずに生きてきた自分にとっては、似合いの仕事だ。
…しかし、厄介なことになってしまったのだ。


それは突然起こった。
ある夜、遠距離を走る翌朝までの仕事が入った。


いつも通りに高速道路の入り口に差し掛かったとき、いきなり動悸が激しくなって呼吸が乱れたのだ。


全身から汗が吹き出し、このまま死んでしまうんじゃないかとさえ思った。


これまで、こんなことは一度もなかったし、窒息する様な危険な状況だったのでパニックに陥った。
必死で路肩に緊急停車したが、体が震えて頭の中は真っ白だった。


「はぁ、はぁ、はぁ…。や、やばい!なんだこれ…」


「一体、どうなっちまったんだ!」



死を感じさせる脅威







精神疾患における「パニック障害」というものがありますが、それに非常によく似た症状に苦しむ方がいらっしゃいます。
このドライバーさんの場合、普通の一般道路の走行や、自車での運転には何の問題もなく、仕事のトラックで、“高速道路”に入ったとたんにそれが起こるというのです。


会社に相談しようにも、業務が遠距離の輸送がメインという事で困り果てていました。


「長距離が乗れないとなれば、うちの会社的にクビは免れない」そう言って、うなだれていました。
この方は、この一件以来一般道を走って業務を行っていたのです。
ごまかしが効くうちはいいですが、ご自身の不安も社内的にも、いずれ無理が生じてしまうでしょう。


同じようなご相談に、電車の車内とか飛行機やバスなどで同様な事が起こるものがあります。


もしかすると皆さんの身近な方にもいるかもしれませんし、カウンセリングや心理臨床に携わる方なら必ずと言っていいほど関わるであろうお悩みのひとつです。


心情的な苦しみのみならず、このような死さえ感じさせるような激しい身体症状を伴う場合、通常の傾聴型のカウンセリングだけでは改善が難しいか、少なくとも長い時間を要すると考えられます。


しかも、多くの人にとっては、一刻も早く脱しなければ生活に支障をきたすばかりか、安定した就労さえ脅かされてしまうでしょう。


早急な改善策が求められます。



高速に拘束される



これらのお悩みに共通するのが、“拘束の長さ”です。
つまり、一般道なら、万が一の時にはすぐにでも路肩に停められますし、電車でも各駅停車なら次の駅までわずかな時間をやりすごせば免れます。
しかし、高速道路や飛行機、快速電車では拘束時間が長くなり、瞬時に停止することが出来ません。


文字通り、「高速」な乗り物だけに「拘束」がつきものという訳です。


それが、彼らにとって何を意味し、なぜそこまでパニックを引き起こすのでしょうか?



思い通りにいかない潜在意識







ホルモンなどの脳内物質が原因だと言われていますが、そのメカニズムは解明されていません。


外部からの何らかの刺激を察知した脳が、それに敏感に反応し、なぜか「パニックを起こせ」という指令を出しているということでしょうか。
心理学的には、「落ち着いて運転しよう」という顕在意識を抑え、なぜか深層意識が「パニックを起こせ」と指示しているとも言えます。
ともかく、こられの現象を意図的にコントロールできない以上、「無意識(潜在意識)」に目を向ける必要があるかも知れません。
これは他にも、「落ち着いて自己紹介をしよう」と思っていても緊張して赤面してしまったり、「疲れたからゆっくり休もう」と思っても、そわそわして眠れなかったり、「あの男は危険だから気を付けよう」と思っていても好きになってしまったり…。


自分の思い通りにいかないのが潜在意識であり、それこそが私たちの感情の源だと言われます。
確かに誰一人として、意図的に「さあ!パニックよ起きろ!」とは考えてはいません。
されど、自分自身の一部である潜在意識が、デメリットしかないパニックを引き起こすのか。


かの天才的な精神科医M・H・エリクソンは、「潜在意識を信じよ」と言っています。


とはいえ、パニックに何のメリットがあるのでしょう。



改善への“見立て”



この男性の場合、私の見立てとしては、誰かパートナーのような人がいるのではないか?というものでしたが、確証はありませんでした。


未婚で彼女は居ないというお話は聞いていましたが、年齢的にも雰囲気的にも男らしさや貫禄があり、身の回りのことでも気になる点がありました。
私の潜在意識が、『この人には、影響力を持つ身近な人物がいる』と知らせているかのようですが、思い付きだけでの介入は避けなければなりません。


同時に、打つ手が見つからないとか頭が真っ白でパニック状態ということだけは、さらに避けるべきです。


決して偶発的に起こっている訳ではないパニック現象に対し、迅速かつ繊細にポイントを絞ることが求められます。



情報からプランを立てる







どのタイミングで、どの会話の中で知りたい情報を収集するのかが一つのカギになります。


仮に、思ったような存在が現れたとしても、それをどのように組み立てていくかは心理師の腕が問われます。
やりかたによっては、抵抗を受けたり誤解を生んでしまったりして遠回りすることになったりもします。
誰だって、他人に知られたくない事や無意識的に避けているものはありますし、それをとやかく言われる筋合いはありません。


「両親とは仲が悪くて、弟とは話さない」
「〇〇という人がいるにはいるけれど、特にこれといった関係はない」
「地元を離れたのは、広い世界を見たかったから」


こういった自覚的な返答も、その時の不快感を表すような無自覚な表情も、使えるものは何でも使うべきです。


パートナーという言葉にも、恋人とか仲間などにも明確な定義はなく、その人にとって「それがピッタリくる表現」ということに過ぎません。
ある奥様は、長年連れ添った旦那様を“単なる同居人”と仰っていました。


それこそが、「個人的な意味付け」です。


さて、トラックドライバーが、誰からも拘束されない仕事?
事実はどうあれ、それを望んだのは確かなようです。


「ははぁ、あなたは身体に無理な仕事をしてますね?」
これは、まず入りません。
「少し、休息が必要かもしれませんね」
これも、それが出来ないから困ってる、などの返答でしょう。
「転職したいと体が表現してるのでは」
かなり突飛です。
「催眠で暗示を入れます」
便利かもしれませんが、エビデンスが低いです。


ともかく、依頼者にとっては“一日も早くパニックを止める事”というニーズがあり、ただし“負担になる事や信用に値しないことは拒否します”ということも含みます。
したがって、依頼者の価値観や感覚に応じた介入でなければ無意味でしょう。



システム介入



お話を聴いていくうちに私は確信しました。
『この人は、本質的には〇〇で××な人であり、それは〇〇に明確に現れている。しかし、××だという認識から、〇〇になっているのではないか』


その見立て通りに介入を行いました。


「高速道路に乗る直前で、必ず〇〇に××をして下さい。複雑な心理状態を〇〇とする方法ですが、試す価値があります」


パラドックス・アプローチという技法を含む、クライアントのリソースを用いた介入ですが、症状は数日のうちに改善に向かい、高速道路を走っても大丈夫になったのです。



CBT(認知行動療法)の得意とするパニックへの対処ですが、短期療法やSAにも効果的な方法があります。







無意識との調和を目指すなら心理相談へ。







※個人が特定できないよう、情報に配慮してあります。
〇や×の言葉には、クライアントへの影響を最優先したうえで、心理師の価値観も色濃く反映しています。誤解を生じるので伏せさせていただきました。

記事を書いた人 Wrote this article

Kondo

短期間で改善を起こす、ブリーフ・サイコセラピー派の心理師。 あらゆる問題の解決事例を持ち、超合理的に結果に導く。 臨床から産業、教育分野まで、幅広い実践経験を持つ。 専門家からの相談を受けるマスター・カウンセラーである。

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