小さなそば屋の心理戦略

心理コンサルティングの事例。

 

 
地域に根差した昔ながらの蕎麦屋があった。
店主のこだわりは、産地から取り寄せた信州蕎麦を打ち立てで提供すること。
この味を求めて、遠くからも客が訪れると言う地元で愛され続けた老舗である。
しかし、この店始まって以来の脅威が訪れていた。
 
近隣に巨大ショッピングモールが出店。
最初は、「本格的な蕎麦を求めるうちの客層とは競合するはずはない」
そう踏んでいた。
むしろ、地域が賑やかになることで客が増えるだろうとさえ見込んでいた。
しかし、時代の流れはそんなに甘いものではなかった。
モールの中には数件の和食屋があり、どこも賑わっていた。
最も脅威に感じたのは、フードコートにあった麺物系の大型チェーン店の存在だった。
視察に行って驚いたのは、その値段と味だ。
ラーメン、うどん、パスタ、ちゃんぽん…、そして、そば…。
どの店も、ワンコインを切って充分にボリュームある一杯を提供していたのだ。
味も、間違いなく美味しかった。
 

しかも、そこはまるでレジャーランドの如く華やかで活気があり、集っている人々の顔はどれも笑顔だった。

長く商売をしてきたからこそわかる。

「この人たちは、食事だけをしに来てるんじゃない。この付加価値を求めて来ているんだ」

「どう頑張ったって、これに太刀打ちなど出来ない…」

 

開業して三〇年…。

どんどんと減っていく客足。

もう、店を閉じるしかないのだろうか…。

 

企業や組織、経営者の悩みや問題に解決策を提案するのが「コンサルティング」ですが、ふじまるではこれに加えて短期療法の知見を基にアドバイスをしますので、「心理コンサルティング」と言います。

私は若い頃に長野県の安曇野という場所に住んでおり、良く蕎麦を頂きました。

実はそれまでは圧倒的にうどんやそうめんと言った小麦派だったのですが、名産の信州そばを口にしてからというもの、その価値観は一変してしまいました。



 

そんな私にとって、このような名店の支援となれば自ずと力が入るものです。

 

店主の有明さんは、関東の方で元々会社員でした。

ご結婚後、この店を構えてお嬢さん二人を立派に育て上げました。

そのお二人も成人して独立し、「もうひと頑張り」という時期の痛手でした。

 

このような黒船への対策は色々とありますが、まずはリサーチです。

売り上げが落ちると真っ先に「なぜだろう?」という疑問が生じます。

そして、次々にそれらしい理由が見えてくるでしょう。

 

①近くにショッピングモールが出来た。

②チェーン店のコストパフォーマンス。

③店の規模と雰囲気。

④ショッピングと食事の利便性。

⑤グルメサイトやSNSなどの影響。

 

色々と出てきますが、どれも簡単には覆せないものばかりです。

有明さんもプロの商売人ですから、これらの風潮にはある程度の予測もあり、「抗えない時代の流れがついに訪れた」という理屈になる訳です。

周辺の何店かがここ数年で閉じており、確かにその信憑性も感じられます。

 

これに対して「心理コンサルティング」では、真逆の視点を重視します。

「なぜ客足が減ったのか」

ではなく、

「なぜ、それでも来てくれる客が存在するのか」

という視点です。

 

売り上げが減ったと言っても、決してゼロではありません。

少なくとも、毎日何名かが来店し、いくらかの売り上げがあると言う事実があるのです。

どんなに「時代の流れ」があったとしても、来てくれる客が存在している。それがなぜなのか、徹底的にリサーチしていくのです。

有明さんは、その問いに対して「それは本物の味を知っている人たちだから」だと仰いました。

つまり、うちに来る客はショッピングモールやチェーン店の偽物の味には満足しない、本物の蕎麦の味を求めて来店している、という予測です。

しかし、それは本当の顧客の声ではありません。

「きっとこうだろう」という店主の主観的観測に過ぎません。

 

そこで、有明さんに二つの課題を提案しました。

①顧客全てのオーダー品と、年齢や職業などわかる範囲で統計を取ること。

②注文や支払いの際、今後のリクエストがないかをさりげなく聞くこと。

この二つです。

 

一か月後、有明さんは少し興奮した様子で訪れました。

報告されたのは、ご自身にとっては思いもよらない調査結果だったのです。

 

「トラック運転手とカレー南蛮」

 

その店は、高速インターの道すがらにあり、トラックが数台停められる広さの駐車場がありました。

いくら大型ショッピングモールといえど、彼らにとっては利便性が悪く、その点、有明さんの店はとても有難いのです。

これから長距離を走らねばならないトラックドライバーが、直前に腹ごしらえする食堂としてのニーズが隠されていたのです。

そして、彼らの何割かが頼んでいたのが「カレー南蛮」でした。



 

本格的な打ち立て蕎麦をこだわりにしている有明さんにとって、カレー味というのは蕎麦本来の風味を損ねてしまう邪道の品でした。

それでも、店主の思いに反してなぜか良く注文される…。

ヒントは、同時に注文される「どんぶり飯」でした。

彼らの存在に気付いていた奥様は、少しでも腹持ちが良いようにと大盛りのご飯を提供していました。

ドライバーたちは、カレー南蛮の残った汁にどんぶり飯を入れ、即席のカレー丼にして掻き込んでいたのです。

そのご飯の量は、どこのサービスエリアよりも大盛りで、それが彼らに受けていたのです。



 

誰も、「本格手打ち蕎麦」など求めていない…。

それが現実であり、顧客ニーズだったのです。

 

「店主のこだわりと顧客ニーズの隔たりを修正すれば、まだまだ勝算はあります」

 

「絶品!カレー南蛮大盛り無料。麺類注文の方ライス無料。トラック歓迎」

駐車場の脇にそのノボリを立てると、みるみるうちに客が増えだしました。

ドライバーたちには、意外なほど口コミ力があったのです。



 

「蕎麦屋の出汁で作ったカレーは美味い」

それまでのカレー丼もリニューアルし、名付けて、「蕎麦屋のまかないカレー」。

これもヒットしました。

 

もう一つの「リクエスト」で寄せられたのは、おにぎりでした。

運転しながら手軽に食べられるおにぎりは、彼らにとっては念願だったのです。

わざわざ大型車を停めて惣菜店や弁当屋に行くのは無理ですし、コンビニやドライブインで買えるものはバリエーションが決まっていてとっくに飽きていました。

そこで、炊き立てご飯に大ぶりのシャケや昆布など、様々な具材を詰め込んだ手作りおにぎりは、一気に人気を呼びました。



 

そこに奥様手作りの漬物と、カップ味噌汁のテイクアウトも付けました。

陳列台には、「美人姉妹が握っています」と言わんばかりに、二人のお嬢さんのエプロン姿の写真ポップを立て「一番人気の鳥五目!」などのアピールを忘れません。

これぞまさに“看板娘”です。

 

これを売り始めると、今度はなんと近くの公園で遊ぶ子連れママたちも訪れ出しました。

わざわざショッピングモールに行くまでもなく、歩いてすぐの場所で手軽に買える大きめのおにぎりは、彼女たちにも好評だったのです。

そこで、子供用の小さいおにぎりとのセットや、店先に椅子やベンチを置いてキッズスペースを設えると、ちょっとしたアウトドアランチの雰囲気が演出できました。



 

こうして日中は子連れママ、朝や夜にはドライバーという分別体制が整ったのです。

 

「なぜ、それでも上手く行った(選ばれる)事例があるのか」

この「視点」は、ソリューション・フォーカス(解決志向)と呼ばれる、短期療法の一つとして有名な理論です。

SFA(ソリューション・フォーカスト・アプローチ:ミルウォーキー派)は、三つのルールで形成されています。

〈ルール1〉 もし、うまくいっているのなら、変えようとするな。
〈ルール2〉 もし、一度やってうまくいったのなら、それを繰り返せ。
〈ルール3〉 もし、うまくいっていないのであれば、何か違うことをせよ。

これは、どんなことにも当てはまるものであり、上手く行かないという事は、このいずれかに反しているという事になります。

しかし、人は決して上手く行っていないことを(良かれと思って)繰り返し、過去の成功の理由を(たまたま、偶然など)深く求めず、そして、他の手段を選ぶことなく、成果の出ないことを延々と繰り返してしまうのです。

 
親「勉強をしなさい!」 → 子供「うるさいよ!(反抗して怠ける)」

妻「もっと〇〇してよ!」 → 夫「俺なりにやってるよ。そもそもお前が…(抵抗して反撃)」

上司「責任をもってしっかりやれ」 → 部下「わかりました。もう無理なんです(退職届提出)」

店主「もっと新しいメニューを出そう」 → 客「なんだか変な店になっちゃったな(流出)」
 

これらは上手く行っていないにも関わらず、意識化もされずに責任転嫁をされ続けます。

だからこそ、負の連鎖が続いてしまうのです。

 

「例外」というのは、どのようなことにも必ず存在します。

そして、良い例外を意識化し、拡大することを「成功・解決」と呼ぶのでしょう。

 

 

個人的には…、十割蕎麦の「ざる」に、生わさびを溶いて吟醸酒を一杯ひっかけるのが真の蕎麦通の粋ってもんだ。

分かってます。他のお客様には、そんなことはどうでもいいことなんです。

ただ、頑固な店主は、そんな私に「蕎麦がきです」と心づくしのサービスをしてくれます。

 

やっぱり、美味い蕎麦は最高です。

 

 

※個人が特定できないよう配慮してあります。

 

 
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